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断食でがんが治る?

がんになったら断食で治そう。そう思っているヒトはけっこういるような気がします。
主に「抗がん剤なんかぜったい使わない」と思っている人に多いのではないでしょうか。

自然療法の中でも手が出しやすい療法のひとつ。
施設で医師のもとで行わないと危険で、ときに死に至ることもありますが、注意事項さえわかっていればできそうな気がするし。
デトックスやダイエットという人気の概念にもつながって、昔ほどいかがわしいイメージはないよう。

私自身が断食に初めて触れたのは、20年前、新潮社の「シンラ」という雑誌で取材したとき。
自分では断食をしませんでした。仕事が忙しかったのでとても一週間も施設にこもるなんて考えられなかった。もったいないことでした。
その後ニューヨークに住んでいる時期にコロラドあたりだったかホリスティック医療を標榜する施設に予約をいれたことがありましたが、やはり仕事の都合でドタキャンしたのでした。興味津々なのに、縁がありそうでないのはどこかで逃げているのかな。

私が断食に興味をもった理由は単純で、肉体を限界まで弱らせたときに出てくる神秘的な何かに期待したからです。

そのアイデアはどこから来たかというと、20年以上前、越智啓子先生が吉祥寺の井の頭公園の近くに精神科のクリニックを構えていたころ、雑誌の連載で定期的にクリニックにお邪魔していたのですが、私はそこで先生の非常に神秘的な断食経験を直接うかがい、断食への興味が突如ひらかれたのでした。

とはいっても、施設での断食経験は今もってないままです。
がん治療のために断食をやってみようと思ったのは昨年9月でした。
抗がん剤以外にできることはないと病院にいわれ、抗がん剤は副作用の強さに負けて逃亡した経緯から自分には無理だと決めてかかっていた時期です。実際には病院を変え、抗がん剤を変えたら、副作用は格段に楽になり、腫瘍マーカーは3ヶ月で8割以上激減したのですが。

当時の私にとって、できるることが他にないと病院に言われれば残るは自然療法しかなく、手が出しやすい順にいろいろやっていくなかででてきたメニューのひとつでした。まずは3日断食にチャレンジ。結果次第ではアップグレイドもありだとと思いながら。

で、結果はというと大失敗。
すでに十分弱っている、貧血も進んでいるからだで断食をすると、空腹はそれほど感じないのですが、体の弱り方がいちじるしい。こんなにだるいのはおかしいと、怖さを感じてやめました。
やめたあと、体が復調するのに4、5日かかりました。だるい、きつい、寝てるしかない。馬鹿なことをしたものです。
断食に思いいれが強すぎなくてよかったけれど、これを1週間や10日続けていたらどれだけからだにダメージを与えたか。
断食は健康なうちにするものです。

がんが悪化すると、食事がとれなくなるだけでなく、食事がとれていても痩せていく人がいます。疼痛があれば(私はありました)寝ている時間がおのずと長くなり、寝ている時間が増えると3日もあれば筋肉が落ちていくのがわかります。 
栄養状態が悪くなるのががんの悪化のプロセスです。栄養状態の悪さにどこまで対処できるかが、がん治療のポイントになるくらいなのに(対処できる病院は多くありません)、断食であえて栄養状態を悪くしてしまうのは、非常に危険な賭けになります。 

そうしたことが知られてないせいともいえますが、断食でがんを治すという考え方は、世間でけっこう人気があります。
いったいなぜなのでしょう。

病院の治療と正反対の場所に位置するから?
つまり、体ひとつで道具も費用もいらず、いつでも誰でもはじめることができるから? 
理論、理屈がシンプルだから? 

「断食は体が本来持っている自然治癒力を引き出す」
自然療法のほとんどのものは、「自然治癒力を引き出す」という説明がされます。

自然治癒力とはなにか? 転んですりむいても、ツバつけとけば治る、というやつです。
あ、違う? 現代医学の力を使わなくても病気が治るって話でしたか?

でも、おかしいですよね。
1950年より前には飢えて死ぬ人が日本を含め世界中に大勢いました。
断食を勇断しなくても、飢えて病気を悪化させ、死に至る人は珍しくありませんでした。
人類は発生以来、ずっと飢え続けていたのです。
しかし飢えは病気に立ち向かう方法になりえなかった。

断食は、飽食の時代だからこそ人の耳目を集めることができる、おもしろい物語にすぎません。
もし断食が療法として有効なら、飢える人の多いアフリカで医療の代わりに推進すればいいのにと思いませんか。

同じことで、菜食や自然塩の大量摂取や運動、都市的生活のストレスを取ることで病気が治るなら、20世紀より前に病気など存在できないことになってしまいます。


「断食」と「がん治療」で検索してみましたら、トップページにいち早くでてきたのがこのウエブサイトでした。

たいへん読みにくい文章ですが、書かれていることは「マウスを対象にして各種研究が行われている」「絶食は抗がん剤の副作用を軽減する可能性がある」というだけのようです。
にもかかわらずタイトルが「絶食は抗がん剤よりも効果的である」とは。
読解力がないのか? いえ、そうではないでしょう。こういうのを「つり」というのですね。

こうしたあからさまなショウバイ気は、「治癒よりビジネス」に重きをおくクリニックであることを露見していますが、それによるデメリットが問題視されていないのが不思議です。


断食ががん治療に有効だと多くの人が信じはじめたのは、ここ十年くらいのことだと思います。

酵素がちまたで有名になったことと関連がありそうです。
断食中に酵素を飲むことを勧める医師が複数いるのです。
酵素ったって家庭で作るアレじゃないですよ。メーカーが作った商品の購入を勧めているのですね。

酵素を有名にするの貢献した医師のひとり、鶴見隆史という医師には、『断食でがんは治る』 (双葉新書)という著書もあります。
がんに関する本にしばしば見られることですが、
非常にまれな治癒例を出して「治る」と言い切る本です
鶴見氏のクリニックはこちらです。

もう一方、 「断食でがんが治る」を推進して大きなムーブメントをつくったと思われるのは、ムラキテルミ氏。

こちらの場合は医師でないため、彼女が使っている有名断食医師の名前は、石原結實氏。
石原氏の断食施設のウエブサイトは最近刷新されたようですが、すこし前まで「ジュース断食でがんは治りません」という文言が躍っていました。「がんはがんの治療で治してください」というような言葉も。

ムラキ氏の自著『ガンは自宅で治す』(KKロングセラーズ)は不思議な本です。
私にとって不思議なのは以下のような箇所です。

●腫瘍マーカーが60を超え、「がんに間違いない」といわれた

そんな医師がいるのだろうか?
腫瘍マーカーをがんではない人が検査するとがんではないのに破格の数値が出ることはしばしば報告されるそうです。

●CTでゴルフボール大の腫瘍がみつかった。三ヶ月前はなかったのに。「このスピードだと間違いなくほかの部位に転移する。手術をしたら95%の確率で肝硬変になる。もし抗がん剤治療をしても3ヶ月から半年の命だ」といわれた。

いちいち乱暴な医師です。CTでみつかっただけで腫瘍ががんであるという確定を出すだけでなく、余命まで伝えるなんて。

●石原氏のクリニックに電話をかけると受診まで「三年半待ちになる」といわれた。

いかに医院長が著名でも、自由診療のクリニックを受診するのに3年半は盛りすぎでは? 


本には石原氏の話がずいぶん出てきますが、その石原氏が「がんは断食では治りません」と書いていたのです。
以前のホームページでは。

ムラキ氏の経験談としてつづられているのは、11日間の石原氏の施設で断食(人参りんごジュースを飲みながら)をするうちに、便が出るようになり、目やに等が出て、11日後には、腫瘍マーカーが施設に入る直前に3000を超えていたが60を切るまでになっていた、と言う話なのです。
今度は3000ですか? どこで計るかでも大きな差がでるそうですが、そこまで腫瘍マーカーってイイカゲンな数字なのだったら私の数値もたいした意味ないのかなあと思えてきますね。実際、私の主治医はマーカー値に一喜一憂しても意味なし、と数字の意味のなさを言っていますが。

私はこの本をじつは母ががんになったときに購入して読んでいました。
まゆつばなところだらけなので母に断食を勧めることはありませんでしたが、自分のことになるとすっかりだまされました。

頼るものがないときは、治った人がひとりでもいるなら、やってみる価値があるような気がしてくるのです。
その奇跡が自分にも起きてもおかしくないと思ってしまうタイプの人がいるのです(わたし)。

ムラキ氏の話がかんちがいに基づく「なんちゃってがん」であったかどうかは知るよしもありませんが、本につづられている大量の便が出る風景のカラフルさはたいへん印象的です。
自然療法で病気を治した人のウエブ記事にはこの描写に影響されているように思うのですが、「大量の排泄物=治癒」という文脈の文章に出会うことがあります。

便はただの便。汗はただの汗です。下剤で大量の排泄物を出すのと、断食中に出すものと違いがありますか?

排毒という言葉は、私自身は20年前に前出の雑誌で扱ったのが最初で最後。毒ということばに何の成分が含まれているかも明らかにできないのに、簡単に毒なんてよく使える、と取材した施設に対して思っていましたが、今ではあまりに多くの人が疑いももたず「デトックス」「排毒」という言葉を使います。
毒は肝臓で中和されており、汗から出ることはありませんが、「デトックス」や「排毒」の文脈で使われる「毒」の意味を問う人は、まずいません。

話がずれますが、この本に出てくる不思議情報のひとつに体温の話があります。
がん患者は体温が36℃以下で、39.5℃以上に体温を上げればがん細胞は死滅するというもの。
手術の直後から今にいたるまで私の体温はほぼ36.5℃以上です。
39.5℃で治るのなら莫大な費用をかけて抗がん剤の開発などしないで熱を上げるようにすればいいだけ。
実際病気のために高熱を出す人はいくらでもいますが、それでがんを治した人の話は聞いたことがありません。

がん患者35℃説、39.5℃以上でがん死滅説を信じている人はたいへん多く、本が売れていることと内容の正確さには何の相関もないことを明らかにしているいい例です。

なぜムラキ氏がこういうヘンなこと・・・失礼、不思議なことを書いているのかといえば、さっくり言うとビジネスになるからです。
講演会に人がおしよせ、本が売れるからです。

自分の体験からよくわかりますが、

少なからぬがん患者は、
高すぎない金額で提示される治療方法を
「実例をだして」
「治ると断言して」販売されると

じつに簡単に、お金を出してしまうのです。


鶴見氏のクリニックのウエブサイトに並ぶ療法はどれも、それでがんが完治した人が何人いるのかと思われる、根拠の薄い方法ばかり。
ほどのよい、支払えなくはない料金設定が、がん患者のココロをくすぐります。

「断食をすればあなたのがんなんかすぐ治る」
私自身、このせりふをある食養生の先生に言われましたが、「治らなかったら?」とは頭には浮かんだけれどいえませんでした。
すでに断食が自分を弱らせることを知っているので、お勧めには従いませんでしたが。
「なぜ、そんなに簡単に断言するのですか」
とくらい言えばよかったけれど、とりあえずすがるワラをキープしておきたいときに、敵を作るようなせりふはいえません。


自然療法でうまくいった人が何人いても、それが誰のがんにも効くことの証明にはなりません。
百人のがん患者がいたら、がんのタイプは百通りあります。
治し方が病態によって違うのは当然のことなのに、なぜがんだけが、「これでがんが治る」という言い方がされ続けているのか。

答えは簡単。

「あなたのがんを治せる」とシンプルに言い切ると、すがってくる患者が大勢いるから。ビジネスが成り立つから。

がんを幼稚に理解している医師免許を持ったビジネスマンが、
または医師の言葉を引用しながら体験談をかたる販売業者が、

「これでがんが治る」と明言します。

「これ」が断食であっても、保険がきかない免疫療法であっても、温熱療法や高濃度ビタミンC療法、音響療法、放射線ホルミシス療法、ケトン食療法などなどであっても、どうぞどうぞご注意を。




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